「ハッピーハロウィーン!トリック・オア・トリート!お菓子くれなきゃイタズラするぞォ~」
そう言って玄関のドアを開けたサングラスに天然パーマの男、久間をみて、霧野はため息を付いた。
「それ昨日だよ」
「あ、そう?」
「雑だなぁ……まぁ、いらっしゃい、入っていいよ」
「おじゃま~」
招かれないと家に入れない久間を、霧野は慣れた様子で招き入れ、久間もまた慣れた様子で家に上がる。
雑な口調とは裏腹に、久間はきっちり靴を揃えて上がるのを霧野はこういうところなんだよなぁ…と眺める。
飄々としていて掴み所の無い様でいて、誤魔化しきれない真面目さが所々に顔を出す。
「まぁ、こういうイベントとか正直興味ないしねェ」
じゃあ何でやったのか、と聞くと、とりあえず乗っかったほうが楽しい、という軽い返事が帰ってきた。
「それにキミは働いてばっかりでロクに楽しんでもいないだろ」
勝手知ったる足取りでリビングに足を進める久間の言葉に苦笑いが出る。その通りだった。
それに、前者と後者では、(両方とも本音ではあるのだろうが)おそらくこっちが本題だろう。
雑なようでいて細々と気に掛けてくる久間のことを、霧野も段々と分かってきた。
この男は、優しい化け物だ。
ドアの向こうに消えた久間の背を追って、霧野もリビングに向かう。
「手、流水が駄目にしても外から来たなら拭いてよね」
「抜かり無く!もう拭きましたァ~」
ウェットティッシュをひらひら掲げて見せてくる。