その日、ルーファスは酔っていた。
さして強くもない酒をしこたま、それこそ浴びるように飲んだ後だった。
だからあんな、普段なら絶対に口にしないことを思わず口走ってしまったのだ。
「飲み過ぎじゃないか?」
自分を案じる声に、ルーファスは酔っ払い特有のジトッとした目を向ける。
視線の先には情けない顔の大男、眉根に皺が寄った事に目ざとく気がついて、大きな体を窮屈そうに縮めてオドオドと様子を伺ってくる。
自分の様などうしようもない人間に縋り付いている、これまたどうしようもない男。ジュリー。
家に居ないと思っていたが、いつの間にやら帰ってきたらしい。
ジュリーの前では酒は飲まない様にしていたのにな、という様な考えが浮かんだが、取り留めもなく散らばっていく。
…まだ飲める。酔ってない。
そんな様なことを言おうとしたが、呂律が回っていないのが自分でもわかる。そのことに何となく腹が立ってぎゅっと眉を寄せた。
ここまで飲んだ理由は、今となっては判然としない、そういう気分だったとしか言いようがない。…とにかく全部酒で忘れてしまいたい様な、酷い気分だったのは確かだったので、目論見通りに酒が思考を鈍らせてくれたらしい。
「おまえ、俺の事を」
ジュリーが持ってきた水のグラスを傾けながら、ふと、前から気になっていたことを口にだしかけて、口ごもる。
怖い、心臓が早鐘を打っている。水を飲んでいるのに口が乾いた様な気分になって、もう一杯口にした。
「……食いたいと思ってるだろ?」
何となく、ジュリーの顔を見られない。グラスを手の中で弄び、ゆらめく水を眺める。
ちょっとした好奇心、酒で判断力が鈍っていた。