不明、私は何だ。
気がついた時には存在していた。
初めて目を開け、世界を見たと思った時にはもう既に、立って歩き言葉を解するものであった。
傷を負ってもすぐに治り、飲まず食わずであろうとも飢えることはない。
力の振るい方ですら自ずと理解していたし、手足と同じく扱えた。
見た目は老齢の様だが、力は人よりはるかに強く、体の不調は存在しない。
もちろん老いて死ぬこともない。
不足するものが何一つとしてない。
そんな事があり得るのだろうか。
明らかに、異常な存在である、異質な存在である。
一体この世のどこにこんな発生の仕方をするものがあるだろうか。
まるで人間の言うところの神がその手で直接作りあげた被造物かの様に、忽然とこの世に現れた己にただ困惑した。
はじめは人の姿をしているのだからと、人に紛れて暮らしていた。
そしてその中でいくつもの気付きがあった。
人間の髪が好きだ。
人間社会に紛れ込む為の結婚、初めてそれを行った相手の髪は青みすら感じさせるほどの黒色で、心地よい手触りと、芳しい香りがした。
人間の血が好きだ。
あの赤色。香り。体温を残した滑る感触。
そしてその味すらも。
人間の強さが好きだ。