なんにもわからない、なんにもかんじない。
混濁とした意識で久間は見慣れぬ天井をなぞる。
あつくもさむくもない。
ただ、どこか懐かしい、良い香りがする。
それと左腕に柔らかな感触。
乾いた目を瞬かせながら、やけに軋む体をやや起こして横を見ると赤金のような髪の、非常に美しい女が健やかな顔で眠っていた。
白い裸体にあからさまに情事の物と思われる痕跡が散っている。
それを見た久間の全身に、嫌な汗がブワ、と噴き出した。
思わず逃げ出しそうになったが、腕をしっかりと胸元に抱き込まれていて身動きが取れない。
「…またか、フロエラ」
この女には近づきたくないのに。
諦めた久間は再び布団に背を預ける。
この女は一度眠ってしまうととにかく寝穢い、目覚めるまで待つしかない。
久間はこの女が嫌いだ。メチャクチャ雑に自分を扱う所が嫌だ。血を与えられた子の立場では逆らいようがない。
魅了で感情を引っ掻き回されて非常にみっともない姿を晒すハメになるし、最低な記憶を引きずり出されてしばらく引きずる事にもなる。
こうやって無理矢理に手酷く抱かせて罪悪感を抱かせてくる所も嫌だ。
本当に顔と体以外全部が全部最悪だ。
なおかつソレを本人があまりわかっていないのがなおさら嫌だ。怒りの行き先を見失う。
しかし寝転んだはいいものの背中がゾワゾワとするし、恐怖と嫌悪で指先が冷たく強張っていくのが分かる。
フロエラがあまりに多くの人間に呪われていることもあって、近づくだけでも冷や汗が止まらない。