「ジェイ〜、起きて〜!」

小さな手でゆさゆさと揺り起こされる。

うるさいなぁ…と、眠たい眼を擦りながら雑多なものがガチャガチャと転がっているヘッドボードの上から、手探りでデジタル時計を探し出す。

重たい瞼をこじ開け、薄目を開けて時刻を確認する。時刻は昼を回っている。

…まだ寝られる。

霞のかかったような頭でそう考えて、時計を少々雑な仕草で元の位置に戻す。

ジェイと呼ばれた男、ジェイバーの仕事は夜がメインだ。…まぁ、昼のこともあるが、何であれ目立たないのが一番いい。

大抵の人間は夜陰に乗じてコソコソ良くない事をするので、ジェイバーもそれに倣っている、何せ売っているのはいかにもなクスリだ。

何かあったらあっという間にトカゲの尻尾が如く切り離される立場である事は理解していたが、ジェイバーの手元にはこの一枚のカードしかなかったのだからどうしようもない。

再び寝始めようとした所で、さらに激しく揺さぶられる。

「おーーーきーーーてーーー!」

その幼女…ミィは、掛け布団越しにバシバシとジェイバーのお腹部分を叩いて「お腹減った〜!」と訴えかけてくる。

幼女にしては強い力で振り下ろされる手がジェイバーの脇腹に突き刺さる。布団越しでマシになってはいるものの、かなり痛い。

「うぅ〜……わかった、わかった、起きる、痛いからそれやめろ…」

このミィもまた、運命という名のディーラーに、たった一枚手渡された逃れられないカードだ。

いくら追い払おうとしても付き纏って来たかと思えば、気がついた時には噛みつかれ、拒む間も無く眷属にされていた。

ミィが吸血鬼だということに気がついたのは、つい最近の事だ。

自身の身体に現れた変化に気がつき、混乱するばかりだったジェイバーだが、再びミィに吸血されて漸く、コレが原因か!と理解した。

どうやらミィは記憶喪失の様で、何を聞いてもキョトンとした顔をしたり、「わかんなーい」と子どもらしい答えが元気に返ってきたり、押しても引いても何も情報が出てこないので、気付くのがだいぶ遅れた。

正直、今でも自分が吸血鬼になったとはにわかには信じがたかったが、確かな繋がりの様なものをこの幼女に対して感じているのも事実だ。